マルチナショナルチームヘッドコーチを退任した

以前、2021年10月から、マルチスポーツ対策チームリーダーに就いたことを書いた。業務は多岐に渡り、引き受けてから中島前リーダーの苦悩を嫌というほど知ることになったのだが、同時に素晴らしい経験をさせていただいたと感じている。

各種大会出場基準や選考基準の策定(プロ登録規定ももちろんこの範疇だ)、チーム委員会の開催、世界選手権派遣事業(エリート選手の派遣サポートのみならず旅行代理店とツアーを作成するのだ)、五島大会、佐渡大会の実行委員会…. これがロングディスタンスがメインとなりつつも、ウィンタートライアスロンやクロストライアスロン(デュアスロン)の規定策定までおよび、要するにオリンピック(引き受けた時はデュアスロンエリートはオリ管轄に移譲)と51.5エイジグループ以外の種目全てをカバーすることになるわけだ。マイナーな種目は、総じて連合とのコミュニケーションが足りておらず、不平不満が多い。その不平不満への対応も、大変勉強になるものだった。トライアスロンへの視野が広がり、非常によい経験ができた。

そんな多くが受動的な業務であったが、本来やりたかったことの一つである「強化」の側面は、自ら能動的に作り出さねばならない。ロングの選手についてはオリンピック種目でない以上、JOC関連の予算はなく、知恵を絞っていかねばならない。

予算がない中、行き着いたひとつの結論が、情報発信による強化と、トライアスロン自体の普及活動だ。情報による強化では、国内のレベルが下がり、国際大会の自国開催もない日本においては、世界との差を数字にして差をはかり、実感してもらうことが重要と考えた。プロ規定のすべての項目をプロ(エリート)優勝者からのタイム%にし、国内大会実績を排除した。これにより、曖昧だった世界との差はわかりやすくなったはずだ。また、世界のトレンドを媒体(Lumina)やオンラインセミナーを通じて情報提供していった。乳酸を用いた強度コントロール、低強度トレーニングの背景を知るための運動生理学、暑熱対策、エアロ研究… 現在数年をかけ、国内レベルは復活しつつありその成果を実感できている。

後者の普及活動による「強化」、これは今の日本トライアスロン全体の課題にもつながる。
これはマルチで四苦八苦している私を見かねた友人の若山氏がマルチチームに加わってくれ(巻き込んだというのが正しいかも)、この本質的な課題に取り組んでくれたのだ。私も若山(源)氏も海外レースが好きで(若山氏はKONA常連)、世界全体からみる日本のトライアスロンの違和感や課題について、考えるための素地がすでにあったと思う。アメリカ、オーストラリア、ドイツ、フランス… オリンピックメダル獲得やコナ優勝経験のある各トライアスロン大国のヒアリングを続け、行き着いた結論が、「普及」だった。

「エイジグループの普及拡大なくして強化はない」

支える文化こそがヒーローをつくっていく。フランスは自国開催のパリオリンピックで4つのメダルを獲得した(パラでは6個、IMではサムレイデロウの優勝が記憶に新しい)が、強化予算は日本の1/2だ。フランスを支えているのは圧倒的なトライアスロンクラブの数だ。強化への登録はクラブが担い、ローカル大会の運営もクラブが担う。ほかの大国も同じようにクラブの貢献度が非常に高い。

こうした事例を踏まえて、どう日本の課題を解決するか「普及チーム」を立ち上げさせていただいた。普及チームを通じての若山氏との仕事は非常に学びが多く、素晴らしい経験だった。途中から、私は本来のマルチチーム業務に注力すべくオブザーバーにおりての参加とさせていただくことになったが、まさに日本トライアスロンの課題ど真ん中を解決するチームであり、今後も私の知見が少しでも役に立つならと協力は惜しまないつもりである。

そんな中、2025年1月より次のオリンピックに向けて新体制となり、離れ小島だったマルチスポーツ対策チームは、オリンピックナショナルチーム、パラリンピックナショナルチームと同列となり、マルチスポーツナショナルチームとなった。この動きは兼ねてより予算獲得に向けて、横串し体制を希望していた私にとって朗報だった。横並びになることで、得られる情報も、施設や人材も機会も増えるはずだと感じていた。タイトルは、リーダーからヘッドコーチとなった。ヘッドコーチというタイトルは、オリパラに合わせただろうだけのタイトルで、リーダー時と変わらずに全てのマネジメントを担当する。先の期待からは、専任のヘッドコーチ職の確保や、マネージャー人材の確保、使える実弾予算の確保があったので、タイトルには目を瞑って引き受けた。

横並び体制になったことから、各チームのコミュニケーションの場として月2回の定例ジャパンミーティング、それにあわせた資料作成が業務に乗っかってきた。さらには、デュアスロンがオリンピックチームから再移譲されて戻ってきた。デュアスロンは日本選手権の開催もここ数年できていなくて、選手からの不満が爆発している状態で、だ。

しかしながら、マルチチームのメンバーは、オリパラと違って体制変わっても無給ボランティアのままだ。サラリーマンをしながら手伝ってくれているメンバーにはクリエイティブな仕事はお願いできないし、そんな時間は皆んなにもない。素晴らしい経験だしやり甲斐こそあるけれども、自分の時間・体力が持たない… 会社経営の私は、皆よりも時間の融通は効くが、それにしてもいくら体があっても足りない。いくらでもアイディア出しや指示はできるけど実働する時間はない。元々、本業でも実働はなるべく減らし、指示出しに努めているのに。苦笑 

4月の予算発表に期待するも、人材も予算も獲得はできなかった。この頃から、目に不調をきたしはじめた。スマホの文字が見えない、太陽の光がまぶしくて外を歩けないといったことが続いた。医師からは仕事の変更、休息を提案され、このタイミングでJTUの仕事をギブアップすることにした。ギブアップなんてしたくなかったが、「糸が切れた」みたいになっていたことも事実だ。健康あってこそだしな。

書くか躊躇するが、残念だったので記載しておこう。
誰に何を言われたか、詳細は書かないが、察していただきたい。

予算交渉の際に、言われた言葉が引き金だ。頑張ってきた自分の大切なものが、ぷつんと切れたのだ。悲しいを通り越して情けなかった。私は目先の小さなこと、私利私欲のために、この仕事を引き受けてはいないよ。恫喝に近い物言いも残念だった、この時代に。

かくして、後任者はなし、業務を細分化し、有給の職員にて担当していただくことになった。当然、受動的な仕事のやり方になるので、クリエイティブなことはやらない。皆、自分の業務で精一杯なのだ。割り振られた職員さんには申し訳なさもあるが、適任者に適当な有償条件が揃うまでは、致し方ないと感じている。今の方向性では、このマルチチームの仕事をやれるのは、情熱と時間(余裕)があることが第一条件ということだろう。いつか、方向性が変わり、しっかりとした予算編成を組み、適任者が嬉々として働ける人事がなされることを祈るしかない。

2021年10月〜2025年6月までの4年弱、孤軍奮闘だったけど、助けてくれた皆様、ありがとうございました。特にマルチチームのみんな、着いてきてくれてありがとう。感謝しています。

旗振り役が不在では、日本ロング界が一旦の後退をしてしまうかもしれないが、数年は成長する道は残してきた。すでに蒔いた種たちが活躍しつつある。そうそう、Luminaさんにマルチチームの記事を載せていただいた。私がやってきたこと、考え方が残されている。せっかくなので、送った原稿(下書き)を転載する。

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マルチスポーツ・ナショナルチームでは、私がリーダーに就任した2022年に策定した中長期計画(2023〜2028年)に基づき、日本ロングディスタンス界の再興を目指して「オールジャパンプログラム」をスタートさせました。

かつて日本人選手は、宮塚選手の2度にわたるアイアンマン世界選手権(コナ)でのトップ10入りを皮切りに、多くのプロ選手たちが世界の舞台で戦ってきました。しかし、2017年の戸原選手を最後に、プロカテゴリーで同大会に出場する選手すら現れていませんでした。

この低迷の要因として、オリンピックへのリソース集中が挙げられます。私は、オリンピックを目指す選手たちがスムーズにロングディスタンスへ移行し、興味を持ってもらえることが、日本ロング再興の鍵だと考えています。適切な指導と環境のもとでトレーニングを積んだオリンピックエリートたちは、コナでも十分に戦えるポテンシャルを持っています。実際に、オリンピックから転向した上田藍選手が2024年、7年ぶりに日本人プロとしてIM世界選手権(ニース)に出場を果たしました。

一方で、オリンピックを経由せずロングを目指す選手たちも存在し、エイジグループとプロの境界は曖昧で、グラデーションのようになっています。これは日本に限らず、海外でも同様です。エイジグループ世界チャンピオンからプロへ転向するのは、一般的なキャリアステップとなっています。そのため、国内エイジグループのレベル向上は、将来のプロ選手輩出に不可欠です。こうした背景を踏まえ、オールジャパンプログラムではエイジもエリート・プロも含めた「オールジャパンで世界と戦うこと」を中長期計画の柱に据えています。

限られた予算の中、強化の中心に据えたのが「情報」です。オンラインセミナーを通じて暑熱対策、乳酸値を活用したトレーニング手法、エアロ対策などの情報を発信してきました。ルミナさんにも多大なご協力をいただき、「サブ9」というスローガンは、コナ出場のハードルが高くなっていた20代・30代エイジ選手にとって良い目標となり、ここ数年で劇的なレベルアップが見られました。これらは、まさに情報発信の成果だと感じています。

国内では、エイジとプロが混在する状況の中で、明確な順位づけと競技構造の整備を目指して、国内最高峰の大会の創設を進めてきました。その結果、段階を経て、2025年からはエイジ・エリート・プロのカテゴリーを統合し、一斉スタート形式の「日本選手権(佐渡Aタイプ)」が実現しました。上位入賞者にはWT世界選手権エリート部門の出場権が与えられ、成績次第ではプロライセンスの取得も可能です。

今後さらにロングのプロ選手を増やすためには、エイジグループ全体の盛り上がりが不可欠です。現在、オリンピック偏重の構造の中で、ロングのプロ選手たちは経済的困難に直面しています。今後はオリンピックだけでなく、アイアンマンを中心としたマーケティングによって、競技に資金が循環する仕組みが求められています。そのためにも、まずは国内ロング市場の活性化が必要です。WTおよびIM両世界選手権のエイジ出場者数をKPIとして設定し、着実な増加を図っています。円安や物価高騰といった懸念材料がある中でも、IM出場者数は増加傾向にあり、局所的には市場の拡大が見られます。

この盛り上がりの先に、多くのプロ選手が出現し、コナでトップ10入りを果たすこと、そしてエイジグループにおいても、「ロング大国ニッポン」としての存在感を世界に示していくこと…それが、この中長期計画のビジョンです。

一緒に、日本の未来を創っていきましょう!


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さて、今後、私は違う方法で日本ロング界に貢献するだろう。組織で働くのは勉強になることがたくさんあったけれども、私の性格は即断即決、必要なら先行投資をしてどんどん進むタイム。こうした組織では自分を活かせないよな、と今更に思う。だからこそ勉強になったのは間違いない。貴重な体験ができたことに感謝だ。私らしい貢献の仕方…具体的になったらまた投稿する。目標は2028年スタートだ。楽しみにしていてほしい。

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